電界放出型スピン偏極電子源の開発

電子スピンの自由度を、デバイスの動作に応用するスピントロニクスの分野が,近年注目を浴びています.しかしながら,ナノ領域でのスピン物性評価装置は,一般のデバイス開発者に浸透していません.そこで,既存の電子顕微鏡等に搭載可能なスピン偏極電子源の開発を進めています.本研究では,電界放出顕微鏡(FEM)にMott散乱スピン検出器を搭載したSpin-FEMを試作し、理論的にフェルミ準位のスピン偏極度が100%であるハーフメタル材料を用いた陰極の開発を進めています.

ハーフメタル強磁性体は,Fermi準位でのスピン分極率が100%であることが理論予測されている.ハーフメタルを用いたスピン偏極電界放出電子源を既存電子顕微鏡に搭載することで,容易かつ安価なスピン物性評価装置の開発が期待される.これは,スピンデバイス開発者の強力なツールとなる.マグネタイト(Fe3O4)がハーフメタル特性を有することが近年の理論計算によって示されている.そこで,ウィスカー形状の単結晶マグネタイトを搭載した陰極を作製した.マグネタイトからの電界放出電子のスピン偏極度の温度依存性において,マグネタイトの金属-絶縁体転位(Verwey転位)が観測された.温度上昇と伴って偏極度は上昇し,室温で最大14 %であった.